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人妻とのH体験談2020.05.31 episodesex

人生の分かれ道が幾つもあり、それが正しかったのかどうかは、今も解らない(6)

閲覧数:3,053人 文字数:13576 いいね数:0 0件

前回の体験談はコチラ

Mちゃんに連絡を入れた。

会いたかった。

無性に。

俺は駅のホームで彼女と待ちあわせ、彼女は夜だったけれど、家の人を誤魔化して出てきてくれた。

俺の姿を見つけると、にっこり笑って小走りに駆けてくる。

可愛らしかった。

清潔な、清楚な感じ。

それに対してドロドロに汚れた俺。

Sさんを説得しているうちに分かったことがある。

ご主人の浮気がお盛んだったのだ。

夫婦仲は、冷えていた。

あんなに俺と寝ると乱れるSさんだが、ご主人とのセックスは好きでないと言う。

ご主人とSさんは約束していたという。

お互いに干渉しないと。

それをSさんは律義に守り、ご主人にクレームを付けなかった。

だから、Sさんもご主人に干渉させないと言っていた。

俺の存在はご主人も知っている。

そして、深い中になっていることもご主人は知っていたのかもしれないと今では思う。

だが、進んでいる理解しあっている夫婦のように見えて、実際はそうでなかったのだろう。

Sさんは俺に

「さびしかったのよ」

とぽつんと言ったことがある。

その反動が俺との関係で出たのかもしれない。

夫婦間は、お互いの信頼の上に成り立つものだろうし、それは相手が絶対に浮気しないという信頼に立つものと今では思う。

俺はこの失敗で、多くのことを学ばせてもらった。

その週は、勉強にならなかった。

勉強なんかできる状態ではなかった。

一週間ちょっとで、四回Mちゃんとデートした。

酒も飲んだ。

Mちゃんは驚いていたが、それでも嬉しそうだった。

随分俺の勉強に気兼ねして、我慢していたことを知った。

Sさんと一緒にいると、情が移ることもある。

が、Mちゃんと一緒にいると彼女を選ぼうという気持ちになる。

そして、Sさんのことを考えると気が重くなった。

Mちゃんを二回抱いた。

処女が開発されてゆくプロセスを、見ることができた。

はじめは、反応も見せなかった彼女だが、その内にインサートされると感じるようになってきた。

蜜坪をこねくり回されるのが好きだった。

「あ、あ、あ」

「アン、アン、アン」

と声を上げ、俺にしがみついてくるようになった。

俺はアパートへの帰宅をわざと遅らせ気味にした。

研究室に行っても、勉強どころではない。

ただ、机に座るだけで、ぼんやり本の活字に目を落とすことができるだけだった。

短答式に合格した人達は、夢中になって勉強していた。

論文試験が近づいていた。

研究室のメンバーは、合格者が最終合格に至れるよう助けることになっている。

色々な雑用があったが、俺はそんな気になれなかった。

だからといって、早く帰るのは恐かった。

俺はぐずぐず時間を潰した。

アパートのドアに、手紙が挟まっている。

Sさんからのものだ。

丸っこい、少女じみた字だ。

クルーノートでしばしば見ていたあの字。

中には合鍵のこと、会えなくて寂しいこと、その他色々書いてある。

俺の誠意を疑うようなことも書いてあったが、今となってははっきり思い出せない。

手紙には切手が張ってなかった。

彼女が来て、挟んでいったのだ。

俺は手紙をくしゃくしゃに丸めた。

頭の中を、どうでもよい考えがグルグル回る。

SさんとMちゃんとのこと、俺を信じきっているMちゃん。

Sさんも俺との愛を確認できたと思っている。

俺が傷つかず、何とかSさんと別れる手はないものだろうかと、頭をひねった。

が、所詮それは無理だ。

アパートを引き払おうか。

だが、彼女は俺の実家の場所も電話番号も知っている。

彼女は俺の履歴書の内容など先刻ご承知だ。

もしもSさんが妊娠していたらどうしよう。

Sさんからの手紙に、思わせぶりなことも書いてあった。

愛の実とか何とか、妊娠と取れなくもないあいまいな言葉。

俺は、気がおかしくなりそうだった。

胃もおかしかった。

何を食べても胃にもたれた。

俺は身長177センチ体重70キロで、筋肉質で幾ら食べても太らない体質だった。

が、この二週間余り食べられず、俺はどんどん痩せていった。

実はこの辺りの時間、日にちの感覚がどうも思い出せない。

日記もつけていなかった。

思い出したくないことを、不安を確認する作業になる、日記とは。

高一から付け続けていた日記が、この辺りでごっそり欠けている。

合鍵をSさんに渡すしかなかった。

彼女は何度も電話をかけてきた。

大家さんは不機嫌になる。

一々俺の部屋に電話の取り次ぎに来るのだから。

俺は申し訳なさそうに大家さんに頭を下げて、電話に出るとSさんなのだ。

遂に俺は合鍵をSさんに渡した。

彼女は俺の部屋に自由に出入りできるようになった。

俺はSさんを抱いたことで、彼女の要求を突っぱねるきっかけを失ったのだ。

あの場合、一回目はほとんどレイプであった。

が、彼女にかかると愛の確認の行為になってしまう。

ほとんど馬鹿だとしか、俺には思えなかった。

彼女は一途に俺を誤解して、感情に任せておれに迫り、遂に合鍵を手に入れたわけだ。

あの時の彼女の笑みを俺は忘れない。

アパートに来てもらいたくはなかったので、彼女と別のところで待ち合わせた。

喫茶店に入り、コーヒーを飲みながらよもやま話をした。

「痩せたんじゃない?身体は大丈夫なの?」

誰のせいだと思いつつも、俺は笑顔で応える。

「ああ、平気だよ。疲れが溜まっているんだと思うんだ」

「そうなの?だと良いけど。どこかでゆっくり休んでいく?」

彼女は上体を少しくねらせた。

俺は、嫌悪感を覚えつつも

「イヤ、いいんだ」

合鍵の話が出てこなければよいがという淡い期待を持ちつつも、この場から早く離れたいとも思った。

「ところでSさんの体調はどお?元気そうだけど」

彼女はほほ笑み、

「私は大丈夫、でも、身体は大切にしなくっちゃね、自分だけのものじゃないんだから」

俺は青ざめた。

相当な衝撃であった。

ガーンという効果音の意味がわかった。

本当はこの時点では、妊娠しているかどうかなど分からない。

二~三ヶ月生理がなかったら、その時調べることになるのだが、そんな知識俺にはなかった。

彼女はジュースをすすって、両肘を立てて顎を乗せ、俺を見つめた。

それからゆっくりと俺に片手を伸ばし、手のひらを俺に見せた。

俺は観念した。

合鍵を渡す。

彼女は両手で鍵を受け取って、大事そうにハンドバックにしまった。

喫茶店の料金は、彼女が持った。

俺が持とうとしたのだが、どうしても払わせなかった。

彼女は時々アパートに来た。

俺が遅く帰ってみると、部屋がきれいになっていたり、冷蔵庫に食材が入っていることがあった。

合鍵を貰ったことで、彼女は心に余裕ができたのだろう、遅くまで部屋にいて俺を困らせるようなことはなくなった。

ときに俺は彼女を抱いた。

中に出してと言われても、絶対に中出しはしなかった。

俺は自分が破滅を先送りしているだけだとはっきり分かっていた。

が、どうすることもできなかった。

勉強は全く身が入らなかった。

研究室に行くだけでも辛かったので、俺は渋谷や歌舞伎町を夜になるまで歩き回った。

俺は腐ってきていた。

道場には辛うじて行っていた。

Mちゃんがいるからだ。

道場には、外国からも稽古生が来る。

カナダ出身のJという男がいた。

俺より後に入門し、身長180センチで男前だった。

政府機関で働いており、日本には期限を区切って、留学に来ていた。

良い男だった。

Jは良いやつだった。

稽古に熱心で、本質を捉えることができる男だった。

力を入れず、柔らかく技は使わねばならない。

多くの道場生は、それが頭で分かっていても身体に現れない。

Jは本気で技を掴もうとしていたし、師範からも可愛がられていた。

そのJがMちゃんにほれたのだ。

が、俺はその時それを知らなかった。

Jは良いやつだったので、おれとMちゃんの関係を邪魔しないようにしてくれていたのだと思う。

鮮烈な気迫、生き生きした生命、透き通った清潔な雰囲気、それらは数値には表わせないが、心で敏感に察知できる。

そして、それらは生き方が真っ直ぐでないと出てこないもののようだ。

というよりも、かつて俺が持っていたかもしれないそれらの雰囲気が俺から失われた。

オーラが濁るというか、友人からどうしたのかと問われたりした。

Mちゃんも敏感にそれを察知したのだろう、心配していると手紙をくれたりした。

俺は濁っていた。

すぐに手に入る女体がある。

彼女を嫌悪しつつも、俺は彼女を突き放すことができなかった。

小遣いをくれると彼女は言う。

が、俺はもらわなかった。

かすかなプライドが俺を支えていたが、それが崩れるのは時間の問題だったと思う。

随分長い期間だったようにも思うし、短かったようにも思う。

俺は彼女の若い燕、愛人になっていたということだ。

Mちゃんの可愛らしさが、清潔感が俺にはまぶしかった。

Sさんはぼってりした感じになってきてしまった。

身体が太ったというのではない、心に脂肪がついてしまったのである。

そう、以前の楽しい日々を何度思い出したことだろうか。

俺は、友達とも話すし、笑う。

が、心の中は空ろでいつも不安感に苛まれていた。

もしMでSさんと出会わなかったら、初体験の晩、あのまま電車に乗っていれば、いや初体験の後、別れていれば・・・。

俺はきっと・・・と思うと涙が出てきた。

情けなくて、哀しかった。

論文試験が始まった。

友達も受ける。

が、俺には遠い世界の事柄に思えた。

妊娠していたら・・・というのが俺の不安の大きな部分を占めていた。

だが、主婦が妊娠することがあるのは当たり前だ。

幸いにしてSさんのご主人の血液型は、俺と同じA型だった。

期待して彼女に聞いてみた。

「ご主人との間に赤ちゃんができる可能性もあるよね」

彼女はにっこり笑って俺に応えた。

「ありえないわ。私達はここ三年セックスが無いの」

今となって思うことがある。

あのままSさんのヒモのようになって、受験を続けたらどうなっていただろうと。

事実、Sさんはご主人との離婚も口に出すようになっていた。

俺と一緒に暮らしてゆけると彼女は言っていた。

そうなったらどうだったろう。

だが、今ははっきり言える。

絶対合格できない、と。

女の側にいて、女に養ってもらっていると段々気力が萎えてくる。

連日のハードな勉強などできない。

できる人間もいるかもしれないが、俺にはできない。

事実、当時勉強量も稽古量も段違いに落ちた。

激しい勉強や稽古ができなくなっていた。

だらだらした時間が流れる。

中学から受験に力を入れ、高校、大学と第一希望に通ってきた俺だが、今は疲れ切った感じだった。

だが、これは本当の疲れではない。

気力が充実していると、一つの疲れは別の激しい活動で癒されることがわかる。

ただの、怠け者、堕落への一歩を歩み出しただけだった。

それも今となって分かることだが。

俺は主導権を完全に彼女に握られていた。

女とは不思議なものだと思う。

セックスという網にかかってしまった哀れな獲物であった俺。

Sさんは蜘蛛だ。

セックスという網だけだったら何とか破って抜けられたかもしれないが、妊娠の可能性が俺を縛りつけた。

俺は体力はあったし、力ではベンチプレス九十キロを上げた。

俺は頭は悪いが、目的に向かっての熱意、根性はあるかもしれない。

しかし、Sさんが上手だった。

彼女は真綿で締めつけるように、俺の自由を奪っていった。

俺を骨抜きにする事を通して。

彼女は巧みに俺を操った。

彼女が一週間俺の部屋に来なかったことがあった。

それまでは週に二~三回は来ていたのだが。

俺はどうしたのかな、と思っていた。

忙しくて来られないということだったので、Mちゃんとデートしたりすることもできた。

実は、その時彼女に生理が来ていたのだ。

後になって分かった。

妊娠していなかったのだ。

妊娠の可能性を彼女は最大限利用していた。

妊娠していたら絶対に堕胎しない、産むと彼女は俺に言い張り、俺はその度青ざめ絶句していた。

そして、生理が来た事実を彼女は俺に隠していた・・・・。

Mちゃんをアパートに呼ぶことはできなかった。

Sさんと鉢合わせしたら大変だ。

渋谷で彼女と会うことにした。

デートは久し振りだった。

俺は楽しかったが、彼女はどこか俺との関係にオブラートが挟まったような感じになっていた。

腕を組み、一緒に歩く。

楽しく話をしたが、どこか、彼女はいつもと違っていた。

道場では変化がなかったのに・・・。

話をしていると、一瞬視線が宙に舞い、今までの全てを俺に任せきっていた姿が見られなくなっていた。

彼女は、高校の卒業アルバムを持って来ていた。

たまたま持っていたのだという。

見せてもらい、彼女の高校時代の姿を一緒に楽しんだ。

彼女は卓球部だった。

あちこちに彼女のスナップが写っていた。

彼女は高校で目立つ子だったようだ。

彼女をホテルに誘った。

彼女はついて来た。

これが彼女との最後のセックスになるとは、俺には予想できなかった。

あれから二十五年が経つ。

あの時のことは、比較的はっきり覚えている。

何故か、しばしば思い出し、妻を抱くときにもあの時のイメージを重ねることがあったからだ。

彼女にも、最後になるかもしれないという予感があったのかもしれない。

というのも、Jが彼女に告白し、彼女の心が揺れ始めていたからだ。

Jは良い男だったが、所詮は外人だった。

内に秘めておくということができないタイプだった。

愛撫のシーンは除く。

彼女はいわゆる上付だった。

ずっと上に膣の入り口があり、尿道口によほど近かった。

俺は四十八歳になるまで、十人の女性と関係を持ったが(全部結婚前)彼女ほど上付きで、正常位のとき心地よかった女性を知らない。

彼女は俺を積極的に受け入れた。

インサートの時はじっとしているが、俺が息子で彼女の内部をかき回し、縦横斜めと突きまくると、

「アン、アン、アン」

と声を上げつつ俺にしがみついた。

一度発射した俺は、次に彼女を上にした。

彼女は、おずおずと動いた。

上付なので、俺の息子が入っているのがよく見える。

上手く彼女は動けなかった。

確かに上付の子の女性上位は、俺の息子にも負担をかけることが分かった。

息子は角度が鈍角になり、快感を覚えるより痛みを覚えた。

俺は正常位に切り替え、激しく動いて膣外射精に持っていった。

Sさんに合鍵を渡して、Mちゃんと交わった日までどれほど経っていたのだろう。

日記には記載が無い。

論文の試験日からして、一月半ぐらいではないだろうか。

この一月半は、まことに俺にとっての激動の月日だった。

そして、俺の混乱の日々も間も無く終わる。

シーンはMに行く。

休憩室だ。

俺はすでにMにいない。

休憩時間のクルーの会話だ。

人によってはこれをネタだと思うかもしれない。そう思われても仕方ない。

MにはIちゃんという子がいた。

彼女が切りだしたらしい。

「ね、ね、この間Hさんが可愛い子と歩いていたのを見ちゃった」

そこにはSさんもいた。

「へー、Hは彼女ができたからMを辞めたのかな?」

「そうかもね、親しそうだったし、腕を組んで歩いていたのよ。うらやましいな」

Iちゃんは良い子だった。

俺は彼女と比較的親しくしていて、彼女の初体験の相手も、相談していたので知っている。

彼女との連絡は後々まで続く。

後に彼女は、K大の大学院生と結婚し、やがてヨーロッパで新婚生活を送ることになる。

さて、続き。

Sさんがカマをかけたらしい。

「Hさんが?信じられないわ。誰かと間違えたんじゃない?」

「あの人、以外とやり手みたいですよ。Hさんに間違いない。私、後をしばらく歩いてみたんだから」

これらの会話は、後にIちゃんから直接聞いて分かったことだ。

Sさんは俺の服装から、一緒に歩いていたMちゃんの雰囲気まで根掘り葉掘り聞いたという。

俺は、そんな会話があったとは全く知らなかった。

ある日、夜九時頃俺がアパートに戻ると、アパートの電気がついていた。

Sさんがいるなと俺はため息をつく思いでドアを開けた。

そして息を飲んだ。

部屋の中が乱雑に荒らされている。

机の中身が皆放り出されて、本やら資料やらが散らかっている。

泥棒が入ったのかと一瞬思ったが、そこにはSさんがいる。

俺は流石に驚いて、

「一体これは何、君が来たときはこうなっていたの?」

と問い掛けたが、彼女は恐ろしい目をして俺をにらみつけた。

彼女の手には、Mちゃんからの手紙が数通握られ、俺の日記が机の前に置かれていた。

「Mちゃんて、誰よ!!!」

彼女は食ってかかるような、恐ろしい目をしていた。

浮気がばれたときの亭主の気持ちがよく分かった。

が、浮気をしているのは俺達ではなかったか。

Sさんは大抵、俺の部屋に来るときはノーブラだった。

時にはパンティを穿かないでくることもある。

俺も雄の性で、服の下で揺れる乳房を見ると、むらむらしてくる。

そんな時、彼女は優しく俺を受け入れてくれた。

この一月半、マスターベーションなどする必要がなかった。

彼女は化粧も薄めにしていた。

それが俺の好みだったから。

彼女はできるだけ俺に合わせようとしてくれていたのだと、今は分かる。

彼女なりに俺に愛情を注いでくれていたのだ。

しかし、それは彼女なりのやり方で、俺の希望とは違っていた。

しばしば来て、部屋を掃除したり、食事を作ってくれたり。

また、彼女は自分の好みで部屋の小物を買い始めていた。

少しづつ、殺風景な男の部屋が変わりつつあった。

そうは言っても、彼女に捕まるということは、二十二歳の男が、三十七歳の女性と結婚することを意味する。

イヤ、結婚とは言っていないが、たとえ同棲であったとしても、一体何事かと思われる関係だろう。

人の目は、うるさい。

また、親や親族は、友人は俺のことを一体どう思うだろうか。

彼女がセックスと妊娠を武器に得ようとしている若い男。

それは彼女にとっては、大切な玩具だったのかもしれない。

彼女の怒りをまともに受け止めることはできなかった。

いきなりこんな状況になったら、誰でも動揺するだろう。

俺は、返事をしなかった。

「落ち着け、落ち着け」

と自らに語りかけつつ、早鐘を打つ心臓が静まるのを待った。

視線を合わせることもできない。

「一体、誰なのよ!!!」

彼女は叫ぶようにして俺に切り込んだ。

俺は周りを見回した。

散らばっているのは机の中のもののようだ。

本などはそれほどでもないが、やはり書棚から放り出されている。

女の嫉妬をまともに俺は受け止めてしまっていた。

俺は黙っていた。

彼女の前には俺の日記がある。

普通日記を読むか。

人のプライバシーに、土足で踏み込むか。

手には手紙がある。

よく見つけたものだ。

愛の確認の言葉も、もちろん入っているやつだ。

日記を読んだのなら、Mちゃんが誰であるか彼女には承知のはずだ。

また、日記には幸いに、ここ二ヶ月以上の記載が無かった。

書く気がしなかったためだ。

俺がSさんに対してどう思っているか、禁断の部分は書かれていない。

故に、彼女は俺の愛情を信じ、俺が彼女に対して浮気をしたと思っているようだった。

この大きな食い違いは一体何なのか。

俺は人生に絶望しかけていたのだが、彼女はそんな事などサラサラ知らず、ただMちゃんに対して嫉妬している。

俺の根底が腐り始めているのを、Sさんは全く気付いていなかったのだ。

所詮女だな、と今では思う。

解かりあえないんだな、と思うのだ。

日記を読まれたと意識したことで、俺は瞬間的に冷えた。

人生の仁義を、彼女が裏切ったと思ったのだ。

やってはならないことをした彼女に、俺は最後のところまで話をもって行こうと決心した。

破滅も恐くない。

今の状態自体が破滅への着実なステップだったから。

俺は、彼女に

「日記を読んだね」

と言った。

ちなみに、Mでのことだが、彼氏のアパートで日記を読んでしまい、怒り狂った彼に犯された子がいた。

彼氏もMの人間だった。

そんな事をする奴には見えなかったのだが、俺には彼の気持ちが解かった。

日記をつけたことの無い人間には、その辺りの心の動きは解るまい。

とにかく、俺も日記を読まれたことで腹が決まったのだった。

もう、行くところまで行くしかない。

絶対に引くまい、修羅場を回避すまいと心に決めた。

彼女は、俺の問い掛けに

「どうだっていいでしょ。それよりMちゃんて誰よ!!!」

俺は

「日記を読んだんなら、解るはずだろ!」

ときつい言い方を返した。

彼女は少しひるんだ。

俺がきつい言い方をすることは滅多に無かったからだろう。

切れるということも無かった。

少なくとも、それを表面には出さないように注意していた。

「読んでの通りさ。よい子だよ」

「彼女のことが好きなのね」

俺は頷いた。

彼女は、再び目をむいた。

「私を騙していたのね」

「騙してなんかいない、騙すって、どういうことだ!」

「私を愛しているって、私は最高の女性だって、何度も何度も言ってくれたじゃないの!!」

相手の土俵には上がらない。

「それより、何故日記を読んだんだ。何故手紙を読んだんだ。やってよいことと悪いことがあるんじゃないのか」

彼女は目をそらせた。

理屈が通っているか、どちらに道理があるかなど構っていられない。

「不安があったからって、疑っているからって、日記や手紙を読んでいいのかい」

そこで良心がとがめたのであろうSさんも、俺達旧世代の価値観を持っている人間だった。

今ではメールなど読み放題みたいだし、私信を読むことが恥ずかしい行為だという常識も無いようなので、こういう責め立て方って取れないだろうと思う。

「私を抱いている間に、彼女を抱いていたなんて・・・・卑怯よ。不潔よ」

ご主人を裏切っているSさんも同じ事だと思うのだが、感情が激するままに言葉が出始める。

次々に俺に浴びせられる機関銃のような彼女の言葉、時には聞くに堪えないような言葉。

俺はできるだけ冷静に対処した。

理屈にならない理屈を言いながらも。

乱雑になっている部屋を見ると、心がシーンと冷えてゆくような感じがした。

お互いに感情的にはなっているが、怒鳴り合いにはなっていない。

二人とも声はあくまで押し殺していた。

感情が高ぶるままに、彼女は涙をこぼしはじめ、しくしく泣き始める。

「ヒック、ヒック」

と肩を震わせていたかと思うと、

「エッ、エッ、エッ」

とその場にへたり込んで、腕で目を覆い、ボロボロ涙を流し始めた。

涙がぽたぽたと畳の上に落ちる。

「エーン、エーン」

と声を押し殺しながらも、絶望感に打ちひしがれた姿、幸福を奪い取られた少女の様な姿がそこにあった。

ああ、俺は彼女が可哀想に、愛おしく思えてしまうほど、彼女は幼女のように泣いていた。

化粧がどんどん取れる。

鼻の頭と目じり、頬の一部から化粧が取れていった。

「私だって・・・私だって・・・・言えないことがあるんだよ!!!」

俺は彼女の側に行き、肩に手をかけた。

ここで、仲直りの言葉を口にしてしまうと、一生離れられなくなると思ったので、俺は黙っていた。

彼女の細い肩は、フルフル震えていた。

俺は、感情を押し殺して

「部屋を片付けよう。このままでは困るんだ」

彼女は涙で一杯になった目を前方に向けたまま、コクリと頷いた。

ヒックヒックしゃくり上げながら、

「ご免なさい、ご免なさい」

と言いながら部屋を片付ける。

俺も一緒に片付けた。

お互いに視線を合わせないようにしながら、ゆっくりとだが黙々と働いた。

彼女が何かを片付けていたとき、再びへたり込んで、シクシク泣き始めた。

何を手にしていたのだろうか、俺には解らない。

が、彼女はそれを泣きながらハンドバッグにしまい込んだ。

俺にはそれが何かは解らなかったが、たとえ俺の大切なものであっても彼女にあげてもよいと思った。

大切な思い出の品になるのだろうから・・・・。

今になって解ることって、沢山ある。

どうして彼女があんな態度を取ったのか、どうして泣いたのか。

その場の状況を思い出すと、彼女の心の状態が読めてくるのだ。

当時はほとんど解らなかった彼女の心が。

そうすると、彼女のぶつぶつ途切れたような、関係ないように見えた行動が、俺の中で一つになってくる。

だから、彼女の行動の描写に、今まで解らなかった連続性を持たせることができる。

ここに書き込むことで、今まで思い出そうともしなかったことを、できなかったことを思い出さざるを得なくなり、Sさんとの思い出に新しい意味を見出すことができ、有難く思う。

きっと彼女は恐かったのだ。

必ず来るだろう別れの時が。

俺が不安に思っている以上に、彼女ははらはらしながら、俺とのひとときを細心の注意をもって作り上げてきたのだろう。

そして、それが崩れる時が来た。

彼女はそれを察知したのだろう。

俺は、そのようなことはその時分にも考えないでもなかった。

ただ、Sさんの切ないまでの胸の内を、当時は実感として感じられなかった。

今は、Sさんの心がある程度解る。

今、俺はSさんの心中を思い、涙が出てくるのを止められない。

実際にSさんと話し合っていたこと、Mちゃんとのことなど、何一つ解決していなかった。

二人の話は平行線のまま進んでいた。

が、その内容よりも、雰囲気で俺の心を彼女は読み取ったのだろう。

もう元には戻れない、終わりの時が来たと彼女は悟ったのだろう。

終わりを迎えることの哀しさ、切なさで彼女は涙が止まらなくなったのだと思う。

その時も彼女はノーブラだった。

片付ける間にも彼女の乳房は揺れていた。

かすかな乳首のぽっちもわかる。

柔らかい乳首だった。

部屋を片付け終わるときには、彼女は泣き止んでいた。

俺は黙って紅茶を淹れるためにヤカンに火をかけた。

彼女は黙って俺の姿を見ていた。

俺は自分が彼女を受け入れる言葉を言ってしまいそうで、恐かった。

俺は黙っていた。

彼女も黙っていた。

俺は何かを話さなくては、と気が焦っていたのだが、何を話せただろう。

俺はMちゃんを選びたいと既に言ってしまっていた。

紅茶を淹れる俺の姿を彼女は見ていた。

俺が視線をあげると、彼女は視線を逸らせた。

何か激しい感情を彼女が押し殺しているのを俺は感じた。

彼女が何を言ってくるだろうか、一体どうすればよいのだろうか、等々俺は考えを巡らせていた。

「もう、お終いね・・・」

彼女が言った。

「そうだね」

「楽しかったわ・・・」

「俺も」

彼女はまた涙ぐんだ。

彼女は紅茶を一杯飲んで、ハンドバッグを開けた。

バッグから出した合鍵を机の上に置く。

「これ、返すわ」

「うん」

余りにあっけなく事が運んでゆくので、俺は信じられなかった。

Sさんは俺の部屋を出て行った。

Iちゃんからの電話で、Sさんが半月仕事を休んだと聞いた。

でも、出てきたときには、元気な様子で安心したとも聞いた。

また、Sさんが優しくなったとも。

翌年、Sさんの二人の子供は共に一流大学に進学したという。

もう、Sさんに会うことはなかった。

数年後、一度デパートでSさんがご主人と一緒に歩いている姿を見た。

俺は、素早く隠れて彼女とご主人を見つめた。

眉が太く、恰幅がよく、男らしいご主人だった。

そして、Sさんはやはり可愛らしかった。

2人はにこやかに買い物をしていた。

何とも言えぬ切なさが俺を襲った。

俺にはSさんに幸多かれと祈り、見送るしかなかった。

Sさんがいなくなった部屋で、俺は一人ぽつんとたたずんでいた。

嵐の日々が終わった。

彼女との話の中で、彼女が妊娠していなかったことも解った。

きちんと部屋は片付けられていた。

彼女の香水の匂い、体温が未だに部屋に残っていた。

俺を縛り、苦しめていた状況から離れることができて、嬉しかったか?

イヤ、そうではなかった。

何ともいえぬ寂しさが、俺を落ち込ませていた。

人間とは、勝手なものだと思う。

机の引出しを開け、彼女の整理を見る。

几帳面な整理整頓だ。

ぶちまけられる前より、余程きれいになっていた。

Sさんと撮った写真が見つからない。




俺は無意識に探したが、見つからなかった。

Sさんが持って帰ったのが恐らく写真だったろうことも解った。

写真は数枚しかなかった。

一緒に旅行に行ったとか、そんな事はなかったから。

ネガはどこに置いたっけな。

あれだけ苦しかったSさんとの日々が、快楽はあったけれど、人間として腐りつつある空しさが、もう恋しくなってきている。

Sさんが泣いたとき、俺が彼女の肩に手をかけたとき、優しく抱いてあげれば、彼女は応えてくれただろうし、今もこの部屋に彼女はいただろう。

その時の一瞬の判断が、二人の人生を分けたのだ。

こんな一瞬は、誰にでもあるだろう。

どちらを選ぶにせよ、リスクがあり、人が傷つく決断が。

俺は決断を下した。

彼女と別れると。

そして、その通りになった。

彼女は家庭に戻るだろう。

仮面夫婦かもしれないが、安定した落ち着いた暮らし。

二人の子供も、いつもと変わらない生活を送るだろう。

俺とSさんが我慢すれば、それで他の人達は幸福でいられるのだ。

俺はそう結論し、Mちゃんに思いを馳せ、試験勉強を再開しようと決心した。

続く


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人生の分かれ道が幾つもあり、それが正しかったのかどうかは、今も解らない(7)
人生の分かれ道が幾つもあり、それが正しかったのかどうかは、今も解らない(5)

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